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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)4857号 判決 1953年11月17日

主文

本件各上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人古山毅の負担とする。

理由

被告人関根長吉弁護人野村常次郎の上告趣意(後記)について。

所論第一点は原判決の憲法三一条違反を主張するが、その実質は事実誤認の主張であって、適法な上告理由と認められない(原判決中大山清とあるは大下清の誤記なること一件記録上明らかである)。また別項刑訴四一一条の適用を主張する理由の第一点は、事実誤認、第二点は量刑不当であるが、記録を調べてみてもその事由を認めることはできない。

被告人大野吉岡弁護人武田三十郎の上告趣意(後記)について。

論旨の一は原判決に法令違反がある旨の主張であるが、所論中憲法違反を主張する記載がある。しかし原判決のいかなる点が憲法のいかなる条規に違反するかが示されていないから適法な上告理由と認められない。(また労働基準法八五条一項二項によれば、業務上の負傷疾病又は死亡の認定等につき異議ある者は行政官庁に審査又は事件の仲裁を請求することができ、また行政官庁は、必要があると認める場合は職権で審査又は事件の仲裁を請求することができる旨を定めていることは所論のとおりである。しかしこの手続は訴訟の必要的前置手続ではないのみならず本件における公訴事実は被告人等において大下清の死亡をもって公傷死と仮装し欺罔手段によって補償金額を受けたかどうかにあって裁判所はこの点を審理判断する権限がありまた責務があるのである。従って裁判所が本件についてその本来の権限と責務を行ったからといって、なんら行政権侵犯の問題を生ずる理由はない。)また論旨二は量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当らない。

被告人古山毅弁護人脇田久勝の上告趣意(後記)について。

所論第一点は訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また所論第二点は憲法一条一三条違反を主張するが、その実質は労働基準法七九条の業務上死亡の解釈を争う法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(原判決の理由冒頭の野村弁護人控訴趣意第一点等についての判示説明によれば、大下清の死亡が「業務上の死亡」と認められないことが十分に首肯できる。そしてこの説明はなんら労働基準法七九条に違反するところはなく論旨はこの点においても理由はない)。

被告人萱津富男弁護人松永東同名尾良孝の上告趣意(後記)について。

所論は、審理不尽による事実誤認を主張するのであって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

その他記録を調べてみても、刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条、一八一条(被告人古山毅に対し)により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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